はじめに:4割が利用する「夫婦ローン」の落とし穴
「私たちもペアローンなら…」その考えが一番危ない
「マイホームが欲しい。でも、夫(または妻)一人の給料だけだと、希望の物件には手が届かない…」
「そうだ、ペアローンなら2人の収入を合算できるから、もっと高額なローンが組めるはず!」
もしあなたが今、このように考えているなら、それは将来の家計を破綻させる危険な落とし穴の入り口に立っているかもしれません。
最近、日本経済新聞で衝撃的なニュースが報じられました。「夫婦で住宅ローン」を組む割合が2024年に過去最高の4割に達し、中には返済期間を40年、50年とする超長期ローンを組む20代も増えているというのです。
参考(日本経済新聞):「夫婦で住宅ローン」4割、過去最高水準 2人で40〜50年返済も
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD216WE0R20C25A4000000
この記事を読んで、「みんなやっているなら安心だ」と感じたとしたら、それもまた危険なサインです。多くの人が選んでいるからといって、それがあなたにとって正しい選択とは限りません。この記事では、なぜペアローンが「原則ダメ」なのか、その深刻なリスクを誰にでも分かるように解説します。
なぜ今、夫婦でローンを組む人が増えているのか?
ペアローンが増加している背景には、都市部を中心とした深刻な住宅価格の高騰があります。特に首都圏の新築マンション価格は上がり続け、一人の収入では理想の住まいを手に入れるのが難しくなっているのが現実です。
「今後さらに値上がりするかもしれない。これを逃したらもう買えない」という焦りから、夫婦2人でローンを組んで借入額を増やし、なんとかマイホームを手に入れようとする人が増えています。しかし、その焦りが、将来のライフプランを冷静に見つめる目を曇らせてしまうのです。
メリットはたった1つ、しかしそれが最大の罠
唯一のメリット:「借入額を増やせる」という甘い誘惑
ペアローンのメリットを一つだけ挙げるとすれば、それは「借入可能額を大幅に増やせる」この一点に尽きます。
例えば、夫の年収が600万円の場合、住宅ローンの借入額の目安は年収の5〜6倍、つまり3,000万円〜3,600万円程度です。しかし、ここに年収400万円の妻が加わり、世帯年収1,000万円でペアローンを組むと、借入可能額は一気に5,000万円〜6,000万円に跳ね上がります。
この「借りられる額が増える」という甘い誘惑が、多くの夫婦をペアローンへと向かわせる最大の要因です。しかし、これこそが最も危険な罠なのです。
「借りられる額」と「本当に返せる額」は全く違う
ここで絶対に間違えてはいけないのは、「銀行が貸してくれる額(=借りられる額)」と「あなたの世帯が将来にわたって無理なく返済し続けられる額(=本当に返せる額)」は、全く別物だということです。
銀行は、あなたの「現在の」収入を見て、「これくらいまでなら貸せますよ」という上限額を提示します。しかし、その計算には、これから35年以上続くあなたの人生の不確定要素は一切含まれていません。
- 10年後、あなたの会社は今と同じように安定していますか?
- 出産や育児で、一時的に妻(または夫)の収入が途絶える可能性は?
- 病気やケガで、長期的に働けなくなるリスクは?
銀行は、あなたの老後の生活や将来の夢まで考えてはくれません。「借りられる額」の上限まで借りてしまうことは、未来の家計のゆとりを全て住宅ローン返済に注ぎ込むようなものなのです。
ペアローンが「原則ダメ」な3つの深刻な理由
【リスク1】夫婦どちらかの収入減で即破綻。リスクは1人分から2人分へ
単独ローンであれば、収入に関するリスクはローンを組んだ本人1人分です。しかし、ペアローンは夫婦2人で返済していくことが前提のため、リスク要因が単純に2倍になります。
夫婦のどちらか一方でも、
- 会社の業績悪化による給与カットやリストラ
- 病気やケガによる長期休業
- 出産・育児によるキャリアの中断
といった事態に陥れば、その瞬間から返済計画は破綻します。特に、女性の収入は出産・育児のタイミングで一時的に大きく減少する「L字カーブ」が依然として社会問題となっており、「夫婦2人の収入が今後も安定して続く」という前提がいかに脆いものかが分かります。
【リスク2】「団信があるから安心」は幻想。片方が亡くなってもローンは残る
「ペアローンでも、団体信用生命保険(団信)に入れば、片方が亡くなっても安心でしょ?」
これは、ペアローンにおける最も危険な誤解の一つです。
一般的なペアローンの団信は、亡くなった人の分のローンしか保障しません。
例えば、
- 夫のローン:3,000万円
- 妻のローン:2,000万円
というペアローンを組んでいたとします。万が一、夫が亡くなった場合、夫の3,000万円のローンは団信によって完済されます。しかし、妻が組んだ2,000万円のローンは、1円も減ることなくそのまま残るのです。
配偶者を失った悲しみの中で、残された方は自分自身のローン返済を一人で続けていかなければなりません。これは「安心」とは程遠い、あまりにも過酷な現実です。
(補足)ローンがゼロになる団信もあるが、金利上乗せで使用は限定的
もちろん、金融機関によっては「夫婦連生団信」という、どちらか一方が亡くなれば残りのローンが全額免除される特殊な団信も存在します。しかし、これは通常の団信より手厚い保障なだけあって、住宅ローン金利に年0.2%〜0.3%程度上乗せされるのが一般的です。毎月の返済額が増えるため、この保険を付けてまでペアローンを組むのは、さらにハードルが高くなります。
【リスク3】離婚時に泥沼化確定。終わらない「元配偶者の借金」
人生、何が起こるか分かりません。万が一、夫婦関係が破綻して離婚することになった場合、ペアローンは「負の財産」として重くのしかかります。
ペアローンでは、お互いが相手のローンの「連帯保証人」になっています。これは「離婚しようが、相手が自己破産しようが、相手の分のローン返済義務からも逃れられない」ということを意味します。もし元配偶者が返済を滞納すれば、銀行はためらわずにあなたの元へ請求に来ます。
さらに、家は夫婦の共有名義になっているため、売却するにも双方の合意が必要です。もしローン残高が家の売却価格を上回る「オーバーローン」状態であれば、売ることもできず、離婚後もお金の鎖で縛られ続けるという泥沼の関係が続いてしまうのです。
『結論』これらのリスクを乗り越えられる人は極めて少なく、ほとんどの人には当てはまらない
収入の変動、死亡、離婚。これら3つの深刻なリスクを「私たちの家庭は絶対に大丈夫」と言い切れるでしょうか?35年という長い期間、全てのリスクを回避できる夫婦は極めて稀です。だからこそ、ペアローンは「原則ダメ」であり、ほとんどの人には当てはまらない危険な選択肢なのです。
【例外的ケース】それでもペアローンを組んでも良い人とは?
では、ペアローンは絶対に組んではいけないのでしょうか。結論から言うと、下記2つの条件を両方ともクリアできる、ごく一部の例外的な人であれば検討の余地はあります。
条件1:片方の収入だけで「余裕で」返済できる借入額に抑えている
これが最も重要な絶対条件です。例えば、夫の収入だけで住宅ローンの返済、管理費、固定資産税などを全て支払っても、家計にまだ十分に余裕がある状態。妻の収入は、生活費としては一切あてにせず、全額を貯蓄や将来のための投資に回せるようなケースです。
この状態であれば、万が一妻の収入がゼロになっても、住宅ローンの返済には全く影響が出ません。実質的には単独ローンと変わらない返済計画でありながら、次の「条件2」のメリットを享受するために、あえてペアローンという形式をとる戦略です。
条件2:住宅ローン控除の最大化など、税制上のメリットを狙って戦略を立てている
上記の条件1をクリアした上で、さらに夫婦それぞれの「住宅ローン控除」を最大限に活用し、世帯全体での節税効果を高めたい、という明確な戦略がある場合です。これは、お金に余裕がある富裕層が、資産運用のポートフォリオの一つとして住宅ローンを戦略的に活用する考え方に近いものです。
(注意)控除はあくまで「おまけ」。目的と手段を履き違えないこと
ただし、忘れてはいけないのは、住宅ローン控除はあくまで期間限定の「おまけ」に過ぎないということです。控除を受けたいがために、返済能力を超えた無理なペアローンを組むのは、完全に目的と手段を履き違えています。年間数十万円の控除のために、数千万円の借金のリスクを倍増させるのは、どう考えても割に合いません。
まとめ:堅実な住宅資金計画を立てるために
ペアローンは非常に慎重に検討すべき選択肢であり、ほとんどの人には当てはまらない。
ここまで読んでいただければ、ペアローンがいかに多くのリスクをはらんだ選択肢であるか、お分かりいただけたと思います。借入額を増やせるという目先のメリットに飛びつく前に、その裏にある深刻なリスクを直視しなくてはなりません。結論として、ペアローンはほとんどの人にとってメリットよりもデメリットがはるかに上回る、極めて慎重になるべき選択肢です。基本的に「金融リテラシー教室」では、ペアローンをお勧めしません。
計画の鉄則①:単独ローンを基準に、無理のない予算を組む
ではどうすればいいのか。答えはシンプルです。住宅ローンの基本に立ち返り、「夫婦どちらか一方の収入だけで組める単独ローン」を基準に、無理のない予算を設定することです。まずは、より収入が安定している方の単独名義で借りられる範囲内で購入できる物件を探す。これが、将来にわたって家計の安定を守る、最も安全で賢い第一歩です。
計画の鉄則②:景気に左右されるボーナス払いは絶対に設定しない
もう一つの鉄則は、「ボーナス払いを絶対に設定しない」ことです。ボーナスは、会社の業績や日本全体の景気に大きく左右される、非常に不安定な収入です。「ボーナスが出たら繰り上げ返済しよう」は良い考えですが、「ボーナスが出ないと返済計画が成り立たない」のは危険すぎます。毎月の返済は、必ず月々の給料の範囲内で無理なく支払える金額に設定しましょう。
夢のマイホーム購入は、人生における大きな決断です。その決断が、未来のあなたと家族を幸せにするものになるよう、目先の甘い言葉に惑わされず、堅実な資金計画を立てることを心からお勧めします。

