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日本株 年間マーケットアノマリー徹底解説

日本株市場のアノマリーとは?

株式市場におけるアノマリー(anomaly)とは、「異常性」や「変則性」という意味を持つ言葉で、経済理論だけでは十分に説明できない株価の規則性や周期的なパターンを指します。これらのパターンは必ずしも毎年厳密に繰り返されるわけではありませんが、過去の長期間の統計データに基づいて特定の時期に現れやすい傾向が見られます。例えば、「夏枯れ」と呼ばれる夏場(7月~9月頃)の市場参加者の減少による出来高の減少や株価の軟調な動き、「掉尾の一振」と呼ばれる年末にかけて株価が上昇しやすい傾向などが代表的なアノマリーです。

長期投資家にとって、これらの年間アノマリーを理解しておくことは、投資戦略を立てる上で有用な情報となります。アノマリーは将来の株価を保証するものではありませんが、年間を通じた簡単な値動きの傾向や周期的なパターンを把握しておくことで、市場の季節性を考慮した投資判断やリスク管理の一助とすることができるでしょう。例えば、過去のデータから特定の月に株価が下落しやすい傾向があるならば、その時期に向けてポートフォリオのリスクを軽減したり、逆に魅力的な銘柄の買い場を探る準備をするといった活用が考えられます。本記事で解説するアノマリーは、日経平均株価を基準とした日本市場の一般的な傾向として捉えてください。

2025年、干支アノマリー「辰巳天井」の影響

日本株市場には、古くから「干支(えと)」に基づく相場格言が存在し、その年の干支によって株価の傾向が示唆されることがあります。2025年は十二支の「巳年(みどし)」にあたります。巳年に関連する有名な相場格言として「辰巳天井(たつみてんじょう)」があります。これは、前年の辰年(2024年)から巳年(2025年)にかけて株価が高値をつけやすいという経験則です。

過去の巳年を振り返ると、相場の大きな転換点や重要な節目となった年が多く見られます。例えば、1988年の不動産バブル、2000年のITバブル、2012年のアベノミクスなど、大きな相場の天井が形成された事例があります。特に直近の巳年である2013年には、アベノミクス効果も相まって、日経平均株価が年間で+50%超という大幅な上昇を記録しています。過去のデータを見ると、巳年における日経平均株価の平均上昇率は+14.1%と好調な傾向が見られます。ただし、過去には2001年(-24.1%)や1977年(-2.7%)のように下落した年もあり、必ずしも毎年上昇するわけではありません。

これらの過去の事例を踏まえると、2025年の巳年相場は「辰巳天井」の格言通り、年内のどこかで天井をつける可能性が高いと考えられています。専門家の間では、2025年も前半は好調な相場が期待される一方で、年後半にかけては調整局面を迎える可能性があるとの見方があります。特に「天井」をつける可能性があるという点は、長期投資家にとって年後半のリスク管理を意識する上で重要なポイントとなります。

特に注目すべき重要月のアノマリー

年間アノマリーの中でも、特に重要度が高いとされる月がいくつかあります。ここでは、過去の傾向や専門家の分析に基づいて、日経平均株価の予想される動きとその根拠を具体的に解説します。

1月:年初の期待と「1月効果」

1月は伝統的に「1月効果」と呼ばれるアノマリーが知られており、株価が上昇しやすい時期とされています。このアノマリーは、年末の税負担を考慮した利益確定売りが一巡し、新年を迎えた投資家のリスク許容度が回復すること、また新年度の投資資金が市場に流入することなどが背景にあると言われています。特に小型株において効果が顕著とされることがあります。過去のデータでは、第二次世界大戦後における日経平均株価の月間騰落率で見ると、1月は最もパフォーマンスが良い月の一つです。過去10年間(2015年~2024年)のデータでも、日経平均株価の1月の勝率は6勝4敗と上昇確率が高い傾向が見られます。2025年の1月についても、2024年末に日経平均が高水準で推移したことや、新NISAを通じた個人投資家の市場参入増加期待などから、堅調な推移が予測される見方もありました。ただし、市場状況(例えば、下落相場)によっては効果が限定的になる可能性も指摘されています。

3月:年度末と配当取りの影響

3月は日本の多くの企業にとって会計年度末にあたるため、市場において特有の需給要因が発生します。一般的に、3月は前半が下落し、後半に上昇する二段階パターンが見られることがあります。これは、月上旬から中旬にかけて米国株の季節的な下落に連れ安したり、金融機関や企業による持ち合い解消売りが集中したりする一方で、中旬以降は3月期決算企業の配当や株主優待の権利取りを目指した買いや、期末の運用成績を良く見せるための機関投資家による「ドレッシング買い」、さらには配当落ち分の再投資による買いが入るためです。特に、配当再投資の買いは相当な規模で発生する可能性があり、TOPIX関連銘柄を中心に買い圧力を生じさせやすい時期です。権利付き最終売買日の前後で高配当株などが買われる傾向が強まります。このため、3月下旬にかけては株価が上昇傾向になりやすいとされています。

4月:新年度入りと外国人買い

4月は日本の新年度の始まりであり、市場では「4月効果」や「新年度効果」と呼ばれる上昇相場が期待される時期です。この時期の最大の特徴は、海外投資家による資金流入が年間で最も多い月であるという傾向です。新年度の投資配分計画の実行、年金資金の運用開始、欧米の機関投資家が日本への配分を増やす傾向などが、外国人投資家の買い越しの背景にあると考えられています。これにより、日経平均株価は上昇しやすいとされています。ただし、月の中旬以降は、本格化する3月期決算発表や、地政学的な要因(例:貿易政策の動向)を前に神経質な展開となる可能性も指摘されます。それでも、新年度の資金流入期待は4月相場の重要な下支え要因となります。

7月:年間の転換点となる可能性

専門家の分析では、2025年7月は日本株市場にとって最も重要な月と位置付けられています。これは、年間の高値を形成する「辰巳天井」のアノマリーがこの時期に顕現する可能性が指摘されているためです。アナリストの予測では、7月のどこかでPER(株価収益率)とEPS(1株当たり利益)の最高値が同時に実現すれば、日経平均株価が4万8608円という高値に達する可能性が試算されています。この試算は、過去のデータとの比較で信頼性が高いとされています。仮に指標の実現時期にずれが生じたとしても、少なくとも4万6000円程度になるという見方が優勢であり、これは多くの市場専門家のコンセンサスの上限値とも一致します。
一方で、例年、7月から10月にかけては「夏枯れ相場」となりやすく、市場参加者の減少や材料難から株価が軟調に推移する傾向もあります。過去30年のデータでは、日経平均株価の7月から10月の月別平均リターンはマイナスとなっています。加えて、この時期に日銀が追加利上げに踏み切る可能性が市場で意識されており、その場合、市場がそれに耐えられるかが関門となるかもしれません。このように、7月は年間の高値形成の可能性と、夏枯れや金融政策による調整リスクが交錯する、非常に重要な転換点となり得る月と言えます。

9月:過去の統計で下落リスクが高い月

9月は年間を通じて最も注意が必要な月と言えます。歴史的に日経平均株価が下落しやすい月として知られており、過去のデータでも平均騰落率が最も低調な月の一つです。この主な理由は、海外投資家が年間で最も売り越す月であるという傾向が顕著であるためです。夏休み明けの投資家心理の変化、米国市場の「9月効果」(米国でも9月は株価が下落しやすい傾向がある)に連れ安する動き、北半球の夏季シーズン終了によるリスク回避姿勢、機関投資家の四半期末(7月~9月期)に向けたポートフォリオ調整などが、9月の下落圧力となる背景にあると考えられています。7月や8月の上昇分に対する利益確定売りも、この時期の上値を抑える可能性があります。ただし、中間配当の再投資による買いが下支えとなる可能性もゼロではありません。9月の下落傾向に備えて、8月中にポートフォリオのリスク調整を検討する投資家もいます。

中程度に重要な月のアノマリー

特に重要度が高い月以外にも、市場の季節性を示す中程度に重要な月がいくつか存在します。これらの月のアノマリーも、年間の投資計画を立てる上で参考になるでしょう。

5月:「セル・イン・メイ」とその背景

5月は「セル・イン・メイ(Sell in May and Go Away)」という相場格言がよく知られる月です。「5月に株を売って市場から立ち去り、10月(または11月)に戻ってこい」という意味で、5月から10月にかけての市場パフォーマンスが、11月から4月にかけてよりも弱いという経験則に基づいています。過去20年のデータでは、5月の月間騰落率は平均で+0.3%と低調であり、前半は軟調な展開になりやすい傾向が見られます。これは、日本の大型連休であるゴールデンウィーク前後の需給の変化や、3月期決算企業の本格的な発表に伴う保守的な業績見通しに対する「失望売り」が出やすいことなどが背景にあると言われています。「セル・イン・メイ」という格言自体も投資家心理に影響を与える要因の一つです。ただし、格言通りに必ず下落するわけではなく、市場のタイミングを計ることは一般的に難しいとの指摘もあります。

10月:歴史的な変動月と注意点

10月は歴史的に市場が大きく変動しやすい月として知られています。これは「10月効果(October effect)」と呼ばれ、過去にはブラックマンデー(1987年)のような市場の暴落が10月に発生した記憶が投資家心理に影響を与えること、また年末に向けて投資戦略を見直す動きなどが背景にあるとされます。日本では、米国発祥のこのアノマリー以上に、実際に過去のデータ(1970年以降)で10月に株価が大きく下落した日数が多いという特徴が見られます。このため、10月はボラティリティ(株価変動率)が高まる可能性に注意が必要です。一方で、「セル・イン・メイ」の続きの通り、10月末のハロウィーンの頃から年末・翌年春にかけて株価が上昇しやすいという「ハロウィーン効果」の始まりとも捉えられます。10月以降は欧米企業の決算発表や、米FRB・日銀の金融政策会合といったイベントも相場を左右する重要な要因となります。年末の需給改善に向けた材料が見えれば、10月後半から反転上昇することも想定されます。

11月:「株は11月に買え」と年末への準備

「セル・イン・メイ」の格言の続きに「(10月か)11月に市場に戻ってこい」とあるように、11月は年末の株価上昇(ウインターラリーや掉尾の一振)に向けた仕込みの時期として意識されることがあります。歴史的に見ても、11月は日経平均株価が強含む月とされています。大和証券の過去データ分析によると、11月に日本株を購入した場合、3ヶ月後または6ヶ月後のパフォーマンスが比較的良好であったとされています。これは、年末に向けて機関投資家の買い戻しや税金対策の売りが一巡し、総じて需給環境が改善しやすいことが理由と考えられています。また、「ウインターラリー」の開始時期としても捉えられることがあります。11月は、年末相場に向けたポジティブな流れが始まる可能性のある月と言えるでしょう。

12月:掉尾の一振と年末ラリー

年末の12月は、日本市場特有の「掉尾の一振(とうびのいっしん)」と呼ばれるアノマリーが期待される月です。これは、年末にかけて株価が上昇しやすい傾向を指します。節税対策の売りが一巡し、新たな年への期待感から買いが入りやすくなること、ボーナス資金の流入、年末に向けた機関投資家のポートフォリオ調整、株価下落時の売り残解消買いなどが、需給面で買い圧力を高める要因となります。一般的に、クリスマス以降は「成り行き相場」で下げ幅を縮小し、12月末には海外勢の買い戻しや年金資金の再投資が株価を押し上げやすい時期とされています。一方で、日本市場特有のアノマリーとして「大納会は安い」という法則も存在し、12月最終営業日には下落傾向を警戒する必要がある点には留意が必要です。年間を通して見ると、12月は上昇確率が高い月の一つです。

日本株特有のその他のアノマリー

日本株市場には、米国市場とは異なる、あるいは日本でより強く意識される独自のアノマリーも存在します。

ゴールデンウィーク(GW)前後の値動き

5月初旬のゴールデンウィーク(GW)は日本独自の大型連休であり、この期間を挟む4月下旬から5月上旬にかけて、市場参加者の減少により取引量が減少し、価格変動が大きくなる可能性があります。海外市場が取引されている間のリスクを避けるための手仕舞い売り(ポジション調整)や、連休明けの材料難から利益確定売りが出やすいなど、特有の需給変動が見られます。過去のデータでは、この時期に市場の異常な値動きが見られることが示唆されています。特に休前日に買いが入る「休前日ラリー」が見られることもあります。

彼岸底

彼岸底は、春(2月下旬頃)と秋(9月下旬頃)の彼岸の時期に、株価が底を打ちやすいとされる日本に古くから伝わるアノマリーです。日本の季節感に基づいたアノマリーであり、投資家心理や需給の変化が影響していると考えられます。特に9月の彼岸底の方が、春の彼岸底よりも信頼性が高いと感じる投資家が多いようです。ただし、これも経験則であり、必ず底を打つわけではありません。

大納会効果

大納会効果とは、日本市場特有の「大納会は安い」という法則です。これは、1年間の最終取引日である大納会の株価が下落しやすいという経験則です。過去のデータを見ると、2016年以降の大納会の終値は、ほとんどの年で前日比マイナスとなっています。このパターンは2025年の大納会にも当てはまる可能性が高く、12月の最終営業日には下落傾向に注意が必要です。

月またぎ効果

月またぎ効果とは、各月の末日と翌月の上旬にかけて株価が上昇する傾向を指します。これは、給与支払いや機関投資家の定期的な資金流入などが影響していると考えられています。日本市場でも同様の効果が確認されており、短期的な取引機会を提供する可能性も示唆されています。ただし、市場状況(例えば、下落相場)によっては効果が弱まる可能性も指摘されています。

米国株アノマリーとの主な相違点

日本株市場は米国株市場と連動性が高いものの、アノマリーに関してはいくつかの重要な違いが存在します。これは、日本独自の経済構造、文化、制度などが影響しているためです。米国株のアノマリーに関する知識を持つ長期投資家ほど、これらの違いを理解することが重要になります。

会計年度と配当月の違い

日本の多くの企業が3月に会計年度を終了し、これに伴う決算発表や配当決定がこの時期に集中します。特に3月末の年度末配当取りに伴う需給変動は、日本市場固有の強いアノマリー要因です。米国では多くの企業や個人の会計年度が12月末に終了しますが、配当の支払い月はより分散しており、日本のような年度末の集中は見られません。中間配当についても、日本では9月に集中する傾向が見られますが、米国では異なります。

日本独自の季節的要因とアノマリー

ゴールデンウィークや8月のお盆休みといった日本独自の大型連休は、市場参加者の減少や休場中の海外市場リスク回避のための手仕舞い売りなど、日本特有の需給変動を生み出します。また、彼岸底や干支アノマリーなど、日本の文化や季節感に基づいたアノマリーも存在します。これらは米国市場には見られない特徴です。

企業統治改革の影響

東京証券取引所が主導する企業統治改革は、日本市場特有のテーマであり、割安な企業の価値向上やM&Aの活発化といったアノマリーに繋がる可能性が指摘されています。これは、米国市場と比較して、日本市場の長期的な構造変化を促す要因であり、アノマリーの現れ方にも影響を与える可能性があります。

その他

  • 4月の新年度効果に伴う機関投資家や外国人投資家の資金流入は、日本の会計年度開始に起因する点で米国市場の傾向とは異なります。
  • 10月効果については、米国では過去の暴落の印象が強い一方、日本のデータでは実際に10月に下落日が多い傾向が見られるという分析もあります。
  • 掉尾の一振も、米国市場の「サンタクロースラリー」とは異なる日本市場の年末の風物詩として、より強く意識される傾向があります。
  • 対米株リバーサル効果のように、前日の米国株と逆相関の関係が見られる可能性が示唆されるアノマリーも存在します(信頼性は検証が必要)。

これらの違いを理解することは、米国市場のアノマリーに関する知識をそのまま日本市場に当てはめるのではなく、日本市場固有の特性を考慮した投資判断を行う上で不可欠です。

長期投資家がアノマリーをどう活用するか

年間アノマリーは、長期投資家にとって年間を通じた簡単な値動きの傾向を把握する上で役立つ情報ですが、いくつかの重要な点を理解しておく必要があります。

まず、アノマリーはあくまで過去の経験則であり、将来の市場を保証するものではありません。毎年必ず同じように動くとは限らず、特に2025年のように外部要因(政策、経済情勢、地政学リスクなど)の不確実性が高い状況では、アノマリーが例年通りに機能しない可能性も十分にあります。

そのため、アノマリーを投資判断の全てとするのではなく、年間投資計画を立てる上での参考情報として活用することが賢明です。例えば、「辰巳天井」のアノマリーから年内のどこかで天井をつける可能性があることを意識し、年後半に向けては徐々にリスク管理を強化する、あるいは7月の目標値近辺での利益確定を検討するといった戦略の準備に役立てることができます。また、9月のように過去に下落しやすい傾向がある月は、魅力的な銘柄の買い場を探る機会として捉えることも可能です。

最も重要なのは、アノマリーに過度に依拠するのではなく、企業の基本的な価値分析(ファンダメンタルズ分析)や、経済環境の変化、政策動向など、多角的な視点からの評価を投資判断の軸とすることです。市場の過度な楽観や悲観に流されることなく、冷静な判断を心がけることが重要です。また、特定の月に一括投資するのではなく、積立投資などの時間分散を組み合わせることで、アノマリーが期待通りに機能しなかった場合のリスクを軽減することができます。アノマリーを認識しつつも、ファンダメンタル分析とリスク管理を優先し、日本市場特有の特性を踏まえた投資アプローチを取ることが、長期的な資産形成へと繋がるでしょう。